11/5 (月)「歴史的都市景観」シンポジウム

ユネスコ世界遺産40周年記念の会合が今京都市で開かれています。その一部を構成するシンポジウムのなかで、関係者より京都会館再整備事業に関する話題提供がなされる予定です。これが現在の建物を守るラスト・チャンスになると思います。是非足をお運び、どのように議論が展開するか、見届けてください。

世界遺産条約採択40周年記念
歴史的都市景観研究会・公開シンポジウム in 京都
「歴史的都市景観という概念の波及と共有」
The Odyssey of the Concept of Historic Urban Landscape

2012年11月5日(月)14 時〜17 時
共催:東京大学都市デザイン研究室、京都市
場所:国立京都国際会館 【日英同時通訳付、申込不要、無料】

ご挨拶: 西村幸夫[東京大学]
基調講演: 京都の歴史的都市景観
     寺田敏紀[京都市景観・まちづくりセンター]
パネル・ディスカッション:
・コーディネーター:西村幸夫[東京大学]
・パネリスト:寺田敏紀 [京都市]
  パオラ・ファリーニ [ローマ大学]
  呂舟先生[清華大学]
  ヨングタニット・ピモンサティアン[タマサート大学]

日本イコモス国内委員会と京都市のやり取り

イコモス20世紀遺産に関する国際学術委員会からの意見書を受けて、日本イコモス国内委員会の第14小委員会で検討が行われてきましたが、京都市とのやり取りが日本イコモス国内委員会のサイトで公開されました。その一連のやり取りを、前段部分を除いた抜粋して紹介します。


日本イコモス第14小委員会
リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/index.html

日本イコモス国内委員会から京都市に送られた京都会館再整備計画に関する見解(2012年9月10日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_comment120910.pdf

(前略)しかしながら、
(4) 京都会館再整備基本設計において、20世紀建築のリビング・ヘリテージ(使われる建物としての継承)としての機能変化を含む改修などの変化に対して、継承すべき価値の判読が困難で、かつその資産のインテグリティ(完全性)の確保が合理的に示されていないこと。

(5) 京都会館再整備基本設計における資産のインテグリティ(完全性)が保たれているかの検証と、その確保のための新たな要求性能の再検討がなされていないこと。

(6) 「京都会館の建物価値継承に係わる検討委員会」提言の示す「近代建築を保存・継承する新たな道筋をつけること」に対する説明が不十分であること。

京都市は、(1)および(2)の点を止揚して、新たな京都会館のあり方を提案するのであれば、上記の(4)〜(6)の疑問点に対処し、かつ、その解決策が京都会館の最小限の改変案であることを合理的に示すべきであると考えます。

京都市が行う上記の作業を注視し、必要に応じて協働して検討するために、イコモス国内委員会拡大理事会(9月8日)において、国内委員会内に第14小委員会「リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討(京都会館再整備計画に関する検討)」(主査:苅谷勇雅)を設置することとしました。また、その検討結果を国際学術委員会ISC20Cに報告する予定です。

日本イコモス国内委員会の見解に対する京都市のコメント(2012年9月11日受領)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos120911.pdf

日本イコモス国内委員会から市長あて「京都会館再整備計画に関する見解」に対するコメント

京都会館再整備について,これまで本市が京都会館の建物価値を認めて慎重に検討を重ねてきたことには評価いただいている。その一方で,再整備に関して,なお丁寧に説明すべき点があるとの御指摘をいただいたと理解している。

○ 本日,いただいた御指摘については誠実に対応し,建物本体の本格的な解体に取り掛かるまで,仮囲いや建物内部の付属設備などの撤去を行っている期間である約1箇月を目途に,日本イコモスの御協力をいただきながら,再整備基本設計の取りまとめに至る経過の説明等に,精力的に取り組んでまいりたい。
京都市としては,英知を集めて再整備に取り組んできており,その内容については,必ず御理解をいただけると確信している。

日本イコモス国内委員会第14小委員会による質問状(2012年9月26日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_question120926.pdf

(前略)第一ホール「建物本体の本格的解体」着手前に御回答いただけますよう、お願い申し上げます。
質問事項

  • (1) 京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し、どのように新たな要求性能を設定したか、経過を追って合理的、論理的、また具体的にお示しください。
  • (2) 上記において、第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的、文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか、また、その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか、お示しください。
  • (3) 第一ホール全面解体除去後においても、実際に京都会館全体として建築的、文化的価値が継承され、そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか、お示しください。
  • (4) 第一ホールを全面解体除去するとした場合、建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか、お示しください。
  • (5) 以上の点を踏まえ、京都会館の建築的、文化的価値継承の観点から、第一ホール再建後において、どのようにそのインテグリティを確保するのか、具体的方策を示してください。また、その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか、スケジュールも含めて具体的にお示しください。

質問状に対する京都市の回答(2012年10月9日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos121009.pdf

  • 1「京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し,どのように新たな要求性能を設定したか,経過を追って合理的,論理的,また具体的にお示しください。」

(前略)再整備の検討を重ねる段階においては,建築後50年に満たないこともあり,本市として国の文化財としての指定や登録について検討することはなかった。まして,現在,学術的に議論されているリビング・ヘリテージとしての「インテグリティ」の確保という観点からの検討は行ったことはなかった。まずは,経過としてこのような状況の中で再整備の検討が進んできたことについては御理解を願いたい。

(中略:検討の経緯)

その結果,第一ホールを安全に使用し続けるための耐震性能向上を図るには建物内部での大規模な補強を必要とするなど大規模工事とならざるを得ず,結果として空間的に建物の利用方法やデザインなどに大幅な変化と制約を及ぼすこととなり,現状の形で第一ホールを保存することはできないことが明らかになった。このため,第一ホールはやむを得ず現在の外郭壁面の位置をほぼ継承しながら建て替えることとし,中庭を中心とした現在の空間構成を継承しながら第二ホールや会議場などの部分は耐震性向上やバリアフリー化など全面的な改修を行うことを方針とした京都会館再整備基本計画を平成23年6月に策定したものである。(後略)

  • 2「上記において,第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか,また,その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか,お示しください。」

(前略) また,再整備の過程においては,「1」で掲げたDOCOMOMO Japanや財団法人日本建築学会からの要望書における指摘事項を踏まえて,大庇の保存やピロティから中庭に至る空間構成を保存するなど,再整備内容を検討し,建物価値継承の実現を図ったものである。

このように,京都会館が,この岡崎の地で市民や利用者に受け入れられる機能を維持しつつ,ホールとして再生し,生き続けていくこと,それこそが,京都会館京都会館であり続けることであり,京都市と多くの京都市民が考える京都会館におけるインテグリティであると考えている。

そして,京都会館京都会館としてあり続けるためには,第一ホールの機能の抜本的な改善が必要不可欠であった。

(中略)

第一ホールの躯体を保存したままフライを付加する案についても,「1」で先述したような様々な機会に検討が続けられた。

しかし,舞台が2階部分にあるという根本的な問題や六角形のホールが持つ機能不全,改修する場合の構造上の補強の問題やフライを既存躯体に付け足した場合のデザイン処理の問題(西側疏水に面して約3m躯体が張り出したり,大庇の部分的なカットが必要など)など,機能のみならずデザインとしての総合的な問題が次々と明らかになってきた。

このように,第一ホールの要求性能を満たし,京都会館京都会館として継承していくためには,最終的には建替えという選択肢しかなかったものである。

なお,京都会館の建物価値継承に係る検討委員会において,設計者である香山壽夫氏(現在の日本でホール建築の第一人者で日本建築学会作品賞,芸術院賞,村野藤吾賞等を受賞)も交えた真摯な議論の上,第一ホールについては,建替えは行うが,深い軒庇から下部については基本的に既存部分の建物価値を継承しつつ,フライタワーを空に溶けていくよう,素材感やデザインを工夫し,景観に与える影響が過度なものとならないように配慮した。

以上のように,京都会館再整備に当たっては10数年にわたり,多くの検証がハード・ソフト両面から市民や利用者,専門家等も交えてなされてきた。その要求性能は京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承,担保し得る範囲であると考えており,今後も実施設計,施工の過程において,インテグリティの継承に努めるものである。

  • 3「第一ホール全面解体除去後においても,実際に京都会館全体として建築的,文化的価値が継承され,そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか,お示しください。」

京都会館は第一ホールだけではなく,中庭を中心とした第二ホールや会議場棟も含めた建物全体の空間構成に,その文化的,景観的価値がある。

特に,岡崎文化ゾーンのメインストリートである二条通り沿いのケヤキ並木をバックにした会議場棟と第二ホールは,建築そのものを保存し,中庭に至るピロティを通した冷泉通りまでの抜けについては,全体の空間構成の中で活かしている。

また,第一ホールはその位置での建替えであり,全体の空間構成を継承することが京都会館の建築的・文化的価値のインテグリティを継承・担保し得るものであるといえる。

中庭の共通ロビーは雨天の際の待ち空間として利用者から待ち望まれていたものであるが,大庇内で設置することにより,中庭の空間を狭めない最低限の広さとし,ガラスのカーテンウォールにより外部と一体感を感じるようなデザインとして手摺を内部化して,保存・継承に努めるとともに,カーテンウォール自体は鉄骨造による別構造として,将来的に復元も可能な構造としている。

第一ホールについても,建物全体の外観の特色ともいえる大庇,手摺,ブリックタイル等,デザインについては基本的に継承していくものであり,機能的に最低限付加されたものを除いては,建物全体の価値が継承されておりそのインテグリティに問題はないと判断している。

付加されたデザインについては,現代の日本を代表する建築家である香山壽夫氏が,「保存再生されつつ建物が生き続けることは建築芸術の本質である。また優れた保存再生とは,単に老朽化した部分を補修することではなく,時代ごとの新しい価値を古い価値の上に重ねていくことでなくてはならない」とまさに現代建築の保存・再生におけるインテグリティについて述べておられる。

このように京都市としては,第一ホール解体撤去後も京都会館全体としてインテグリティについて担保し続けていると考えており,今後もそのための努力を続ける。

  • 4「第一ホールを全面解体除去するとした場合,建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか,お示しください。」

京都会館の建物価値継承に係る委員会でも,素材の継承について,部材ごとに丁寧に議論を行い, 基本設計に活かした。

第一ホールについては,「1」,「2」で先述した理由から建て替えざるを得なかったが,京都会館全体の特色ともいえる空間構成を守りながら,その位置で建て替えるとともに建物全体の特色でもある水平ラインを活かした大庇や手摺等をデザイン・素材を尊重するとともに外壁のブリックタイルもその素材感を現代によみがえらせるよう,努力する。

解体工事においては,第一ホールの特色あるディテール(タイルや大庇)の部分採取により当時の工法等を復元に活かすとともに,PC造の手摺については限りなく再活用を図る等,今後の実施設計や復元工事に反映できるように対処する。

ただし,内部空間については,第一ホールはその機能において根本的な問題を抱えており,舞台, 客席も含めて新たなデザインを創造していくことから,その外観について建物価値を継承していく ものとしている。

  • 5「以上の点を踏まえ,京都会館の建築的,文化的価値継承の観点から,第一ホール再建後において,どのようにそのインテグリティを確保するのか,具体的方策を示してください。また,その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか,スケジュールも含めて具体的にお示しください。」

第一ホール再建後のインテグリティ確保の方策に関して,基本設計と並行して実施した「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」の取組については先述のとおりであり,取りまとめられた基本設計の内容は,京都会館の建物価値を継承しつつ,公共ホールとしての機能再生と安全性の確保を図るもので,多くの市民や利用者の皆様の御期待に応えるために,現時点で考え得る最適な計画であると考えている。

なお,基本設計受託者である香山壽夫氏には,引き続き,実施設計の監修者として再整備に携わっていただき,京都会館の建物価値継承が確実に図れるよう,取り組むこととしている。

現在,京都会館では10月中旬からの本格的な躯体の解体工事に向けて作業を進めているところである。その一方で,ISC20C(20世紀遺産に関する国際学術委員会)から提出された意見書を踏まえて,日本イコモス国内委員会第14小委員会の御指導を仰ぎながら,本格的な躯体の解体工事と並行して,

*[資料] 日本イコモス国内委員会と京都市のやり取り

イコモス20世紀遺産に関する国際学術委員会からの意見書を受けて、日本イコモス国内委員会の第14小委員会で検討が行われてきましたが、京都市とのやり取りが日本イコモス国内委員会のサイトで公開されました。その一連のやり取りを、前段部分を除いた抜粋して紹介します。


日本イコモス第14小委員会
リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/index.html

日本イコモス国内委員会から京都市に送られた京都会館再整備計画に関する見解(2012年9月10日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_comment120910.pdf

(前略)しかしながら、
(4) 京都会館再整備基本設計において、20世紀建築のリビング・ヘリテージ(使われる建物としての継承)としての機能変化を含む改修などの変化に対して、継承すべき価値の判読が困難で、かつその資産のインテグリティ(完全性)の確保が合理的に示されていないこと。

(5) 京都会館再整備基本設計における資産のインテグリティ(完全性)が保たれているかの検証と、その確保のための新たな要求性能の再検討がなされていないこと。

(6) 「京都会館の建物価値継承に係わる検討委員会」提言の示す「近代建築を保存・継承する新たな道筋をつけること」に対する説明が不十分であること。

京都市は、(1)および(2)の点を止揚して、新たな京都会館のあり方を提案するのであれば、上記の(4)〜(6)の疑問点に対処し、かつ、その解決策が京都会館の最小限の改変案であることを合理的に示すべきであると考えます。

京都市が行う上記の作業を注視し、必要に応じて協働して検討するために、イコモス国内委員会拡大理事会(9月8日)において、国内委員会内に第14小委員会「リビング・ヘリテージとしての20世紀建築の保存・継承に関する課題検討(京都会館再整備計画に関する検討)」(主査:苅谷勇雅)を設置することとしました。また、その検討結果を国際学術委員会ISC20Cに報告する予定です。

日本イコモス国内委員会の見解に対する京都市のコメント(2012年9月11日受領)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos120911.pdf

日本イコモス国内委員会から市長あて「京都会館再整備計画に関する見解」に対するコメント

京都会館再整備について,これまで本市が京都会館の建物価値を認めて慎重に検討を重ねてきたことには評価いただいている。その一方で,再整備に関して,なお丁寧に説明すべき点があるとの御指摘をいただいたと理解している。

○ 本日,いただいた御指摘については誠実に対応し,建物本体の本格的な解体に取り掛かるまで,仮囲いや建物内部の付属設備などの撤去を行っている期間である約1箇月を目途に,日本イコモスの御協力をいただきながら,再整備基本設計の取りまとめに至る経過の説明等に,精力的に取り組んでまいりたい。
京都市としては,英知を集めて再整備に取り組んできており,その内容については,必ず御理解をいただけると確信している。

日本イコモス国内委員会第14小委員会による質問状(2012年9月26日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyotokaikan_question120926.pdf

(前略)第一ホール「建物本体の本格的解体」着手前に御回答いただけますよう、お願い申し上げます。
質問事項

  • (1) 京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し、どのように新たな要求性能を設定したか、経過を追って合理的、論理的、また具体的にお示しください。
  • (2) 上記において、第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的、文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか、また、その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか、お示しください。
  • (3) 第一ホール全面解体除去後においても、実際に京都会館全体として建築的、文化的価値が継承され、そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか、お示しください。
  • (4) 第一ホールを全面解体除去するとした場合、建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか、お示しください。
  • (5) 以上の点を踏まえ、京都会館の建築的、文化的価値継承の観点から、第一ホール再建後において、どのようにそのインテグリティを確保するのか、具体的方策を示してください。また、その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか、スケジュールも含めて具体的にお示しください。

質問状に対する京都市の回答(2012年10月9日付)
http://www.japan-icomos.org/workgroup14/kyoto_answer_jpicomos121009.pdf

  • 1「京都市としてどのように京都会館第一ホールの機能上の課題を整理し,どのように新たな要求性能を設定したか,経過を追って合理的,論理的,また具体的にお示しください。」

(前略)再整備の検討を重ねる段階においては,建築後50年に満たないこともあり,本市として国の文化財としての指定や登録について検討することはなかった。まして,現在,学術的に議論されているリビング・ヘリテージとしての「インテグリティ」の確保という観点からの検討は行ったことはなかった。まずは,経過としてこのような状況の中で再整備の検討が進んできたことについては御理解を願いたい。

(中略:検討の経緯)

その結果,第一ホールを安全に使用し続けるための耐震性能向上を図るには建物内部での大規模な補強を必要とするなど大規模工事とならざるを得ず,結果として空間的に建物の利用方法やデザインなどに大幅な変化と制約を及ぼすこととなり,現状の形で第一ホールを保存することはできないことが明らかになった。このため,第一ホールはやむを得ず現在の外郭壁面の位置をほぼ継承しながら建て替えることとし,中庭を中心とした現在の空間構成を継承しながら第二ホールや会議場などの部分は耐震性向上やバリアフリー化など全面的な改修を行うことを方針とした京都会館再整備基本計画を平成23年6月に策定したものである。(後略)

  • 2「上記において,第一ホールに対する新たな要求性能が京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承・担保し得る範囲内のものであるかの検証をどのように行ったか,また,その要求性能の妥当性等についてどのように検討したか,お示しください。」

(前略) また,再整備の過程においては,「1」で掲げたDOCOMOMO Japanや財団法人日本建築学会からの要望書における指摘事項を踏まえて,大庇の保存やピロティから中庭に至る空間構成を保存するなど,再整備内容を検討し,建物価値継承の実現を図ったものである。

このように,京都会館が,この岡崎の地で市民や利用者に受け入れられる機能を維持しつつ,ホールとして再生し,生き続けていくこと,それこそが,京都会館京都会館であり続けることであり,京都市と多くの京都市民が考える京都会館におけるインテグリティであると考えている。

そして,京都会館京都会館としてあり続けるためには,第一ホールの機能の抜本的な改善が必要不可欠であった。

(中略)

第一ホールの躯体を保存したままフライを付加する案についても,「1」で先述したような様々な機会に検討が続けられた。

しかし,舞台が2階部分にあるという根本的な問題や六角形のホールが持つ機能不全,改修する場合の構造上の補強の問題やフライを既存躯体に付け足した場合のデザイン処理の問題(西側疏水に面して約3m躯体が張り出したり,大庇の部分的なカットが必要など)など,機能のみならずデザインとしての総合的な問題が次々と明らかになってきた。

このように,第一ホールの要求性能を満たし,京都会館京都会館として継承していくためには,最終的には建替えという選択肢しかなかったものである。

なお,京都会館の建物価値継承に係る検討委員会において,設計者である香山壽夫氏(現在の日本でホール建築の第一人者で日本建築学会作品賞,芸術院賞,村野藤吾賞等を受賞)も交えた真摯な議論の上,第一ホールについては,建替えは行うが,深い軒庇から下部については基本的に既存部分の建物価値を継承しつつ,フライタワーを空に溶けていくよう,素材感やデザインを工夫し,景観に与える影響が過度なものとならないように配慮した。

以上のように,京都会館再整備に当たっては10数年にわたり,多くの検証がハード・ソフト両面から市民や利用者,専門家等も交えてなされてきた。その要求性能は京都会館全体の建築的,文化的価値のインテグリティを継承,担保し得る範囲であると考えており,今後も実施設計,施工の過程において,インテグリティの継承に努めるものである。

  • 3「第一ホール全面解体除去後においても,実際に京都会館全体として建築的,文化的価値が継承され,そのインテグリティが担保され得ることが証明できるか,お示しください。」

京都会館は第一ホールだけではなく,中庭を中心とした第二ホールや会議場棟も含めた建物全体の空間構成に,その文化的,景観的価値がある。

特に,岡崎文化ゾーンのメインストリートである二条通り沿いのケヤキ並木をバックにした会議場棟と第二ホールは,建築そのものを保存し,中庭に至るピロティを通した冷泉通りまでの抜けについては,全体の空間構成の中で活かしている。

また,第一ホールはその位置での建替えであり,全体の空間構成を継承することが京都会館の建築的・文化的価値のインテグリティを継承・担保し得るものであるといえる。

中庭の共通ロビーは雨天の際の待ち空間として利用者から待ち望まれていたものであるが,大庇内で設置することにより,中庭の空間を狭めない最低限の広さとし,ガラスのカーテンウォールにより外部と一体感を感じるようなデザインとして手摺を内部化して,保存・継承に努めるとともに,カーテンウォール自体は鉄骨造による別構造として,将来的に復元も可能な構造としている。

第一ホールについても,建物全体の外観の特色ともいえる大庇,手摺,ブリックタイル等,デザインについては基本的に継承していくものであり,機能的に最低限付加されたものを除いては,建物全体の価値が継承されておりそのインテグリティに問題はないと判断している。

付加されたデザインについては,現代の日本を代表する建築家である香山壽夫氏が,「保存再生されつつ建物が生き続けることは建築芸術の本質である。また優れた保存再生とは,単に老朽化した部分を補修することではなく,時代ごとの新しい価値を古い価値の上に重ねていくことでなくてはならない」とまさに現代建築の保存・再生におけるインテグリティについて述べておられる。

このように京都市としては,第一ホール解体撤去後も京都会館全体としてインテグリティについて担保し続けていると考えており,今後もそのための努力を続ける。

  • 4「第一ホールを全面解体除去するとした場合,建築の当初の部分や材料の保存の側面も含めどのように建物価値を継承し得るのか,お示しください。」

京都会館の建物価値継承に係る委員会でも,素材の継承について,部材ごとに丁寧に議論を行い, 基本設計に活かした。

第一ホールについては,「1」,「2」で先述した理由から建て替えざるを得なかったが,京都会館全体の特色ともいえる空間構成を守りながら,その位置で建て替えるとともに建物全体の特色でもある水平ラインを活かした大庇や手摺等をデザイン・素材を尊重するとともに外壁のブリックタイルもその素材感を現代によみがえらせるよう,努力する。

解体工事においては,第一ホールの特色あるディテール(タイルや大庇)の部分採取により当時の工法等を復元に活かすとともに,PC造の手摺については限りなく再活用を図る等,今後の実施設計や復元工事に反映できるように対処する。

ただし,内部空間については,第一ホールはその機能において根本的な問題を抱えており,舞台, 客席も含めて新たなデザインを創造していくことから,その外観について建物価値を継承していく ものとしている。

  • 5「以上の点を踏まえ,京都会館の建築的,文化的価値継承の観点から,第一ホール再建後において,どのようにそのインテグリティを確保するのか,具体的方策を示してください。また,その準備のために解体前及び解体中にどのような調査や作業等を行うのか,スケジュールも含めて具体的にお示しください。」

第一ホール再建後のインテグリティ確保の方策に関して,基本設計と並行して実施した「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」の取組については先述のとおりであり,取りまとめられた基本設計の内容は,京都会館の建物価値を継承しつつ,公共ホールとしての機能再生と安全性の確保を図るもので,多くの市民や利用者の皆様の御期待に応えるために,現時点で考え得る最適な計画であると考えている。

なお,基本設計受託者である香山壽夫氏には,引き続き,実施設計の監修者として再整備に携わっていただき,京都会館の建物価値継承が確実に図れるよう,取り組むこととしている。

現在,京都会館では10月中旬からの本格的な躯体の解体工事に向けて作業を進めているところである。その一方で,ISC20C(20世紀遺産に関する国際学術委員会)から提出された意見書を踏まえて,日本イコモス国内委員会第14小委員会の御指導を仰ぎながら,本格的な躯体の解体工事と並行して,

1. 素材及び部材の再利用拡大を検討するための調査(具体的には第一ホール北側部分の手摺に第一ホールの既存外部手摺の再利用を検討)
2. 解体工事を通じた記録報告書の作成
を実施することとし,現在,スケジュール等について具体的な調整を行っているところである。

上記の調査及び報告書の作成は,京都市においては当初,想定していなかったものであるが,ISC20C及び日本イコモス国内委員会からいただいた指摘を真摯に受け止め,京都会館の建築的, 文化的価値継承の観点から,これまでの取組に加えて新たに取り組むこととしたものである。したがって,その結果について,できる限り尊重,実現を図ることとする。

日本イコモス国内委員会の質問は、20世紀専門委員会がこのプランは建物価値を継承していないと認定したところから出発しているわけですが、一向に変わらない主張を繰り返しているわけで、専門委員会の認定を愚弄していると言ってもいいでしょう。大体、調査や委員会の結論が出る度にそれと矛盾することをしてきたのに、調査や委員会を設置して慎重に進めてきたとか言われても、おかしいわけです。ただ、一般的な感性の日本人が相手だと、こうやって言い張っていれば相手が黙ってしまうので、これまでずっとそれが通ってきたわけです。そういうことは止めなければならないと、つくづく思います。
素材及び部材の再利用拡大を検討するための調査(具体的には第一ホール北側部分の手摺に第一ホールの既存外部手摺の再利用を検討)
? 解体工事を通じた記録報告書の作成
を実施することとし,現在,スケジュール等について具体的な調整を行っているところである。

上記の調査及び報告書の作成は,京都市においては当初,想定していなかったものであるが,ISC20C及び日本イコモス国内委員会からいただいた指摘を真摯に受け止め,京都会館の建築的, 文化的価値継承の観点から,これまでの取組に加えて新たに取り組むこととしたものである。したがって,その結果について,できる限り尊重,実現を図ることとする。

日本イコモス国内委員会の質問は、20世紀専門委員会がこのプランは建物価値を継承していないと認定したところから出発しているわけですが、一向に変わらない主張を繰り返しているわけで、専門委員会の認定を愚弄していると言ってもいいでしょう。大体、調査や委員会の結論が出る度にそれと矛盾することをしてきたのに、調査や委員会を設置して慎重に進めてきたとか言われても、おかしいわけです。ただ、一般的な感性の日本人が相手だと、こうやって言い張っていれば相手が黙ってしまうので、これまでずっとそれが通ってきたわけです。そういうことは止めなければならないと、つくづく思います。

住民訴訟の初公判@京都地裁

京都会館住民訴訟の初公判情報です。私も陳述に立つ予定です。どなたでも傍聴可能です。是非傍聴にお越し下さい。

京都会館住民訴訟 第1回公判日
日時:2013年10月17日(水)午後2時30分〜
場所:京都地方裁判所203号室

平成24年(行ウ)第33号 解体工事差止請求事件
原告 吉田和義 外111名
被告 京都市長 門川大作

京都地方裁判所 http://www.courts.go.jp/kyoto/
京都府京都市中京区菊屋町(地下鉄丸太町駅1・3・5番出口から徒歩5分)
地図はこちら http://www.courts.go.jp/kyoto/about_tiho/syozai/kyotomain/index.html

次回は12月19日(水)午後です、たぶん。

京都会館解体工事中止求める要望書・市民団体が提出@京都新聞

京都新聞にも出ました。
http://www.jca.apc.org/jikkuri/docs/121016_kyoto_SFA.gif
ところで、この人に出してもらうなら何故もっと前に出してもらわなかったのかということですが、欲を言えばオペラハウスのマネージメント筋から出してもらいたく*1、直前まで努力していたということです。これが最近の遠征で気がそぞろだった理由ですね。

*1:昨シーズンからROHのディレクターになったあの人辺りに。

本体解体工事の中止を 京都会館問題で署名3000人分提出@京都民報

またもや書いてくれるのはここだけか。

http://www.kyoto-minpo.net/archives/2012/10/16/post_9089.php
2012年10月16日 10:27 京都民報
本体解体工事の中止を 京都会館問題で署名3000人分提出

 京都会館の建て替え計画に反対し、保存を求めている「岡崎公園と疏水を考える会」と「京都会館再整備をじっくり考える会」は15日、京都市に対し、工事中止を求める要望署名約3000人分を提出しました。
 京都市が9月から始めた同会館第1ホールの解体工事が、16日から建物本体の取り壊し作業に入ることから、緊急に行われたもの。
 門川市長あての要望書は、戦後モダニズムを代表する建築物・同館の解体工事について「歴史的文化都市の名に恥じる行為」と指摘し、建て替え計画の再考を求めています。
 両会が収集した署名は総数1万4645人分で、同市への提出は3回目です。

市長に手渡ししてきた

初出 http://d.hatena.ne.jp/starboard/20121013

こういう場には、あの人がへらへらやって来るんですよねー。そう、京都市長の門川です。例のごとく落語家のような黄土色の羽織袴を着て現れました。こういう機会は逃さないのが私です。手持ち資料の中から、最近の京都会館資料一式を揃え、笑顔で近づいて「市長、お渡ししたいものがあります」と言って手渡ししてきました。その最近の資料とは明日プレスリリースに出しますので、掲載後に公表します。

面白いのが、こういう社交の場なのに、おっちゃんその後は全然へらへら出来ないんですよね。たまにちらっとこちらを見て、苦虫を噛み潰したような顔をしています。もちろん私は笑顔で会釈です。しかし、めっちゃクレームを付けられたとか公衆の面前で罵倒されたとか、そんなことでもないのに、打たれ弱過ぎます。政治家なら、「市政へのご関心を有難うございます、よく検討させて頂きます」と言い放って笑っているくらいの面の皮の厚さは当たり前です。本当に肝っ玉の小さい男だ。そんなだから、各種方面に都合よく使われて命を削られるんですよ。


こちらのコメント欄も合わせて必読です。

京都会館改築計画を問う「美と調和」の破壊/東京新聞

東京新聞 2012年10月9日
京都会館改築計画を問う 「美と調和」の破壊 松隈洋

 私たちは身近な生活空間を形づくってきた私たちの時代の建築をどのような形で共有し、明日へとつなげることができるのか。古都・京都でそのことにかかわる保存問題が正念場を迎えている。

 「京都会館」は、一九六〇年、京都の戦後復興の象徴として、平安神宮のある緑豊かな岡崎公園に建てられた複合文化施設である。「神奈川県立音楽堂」や「東京文化会館」を手がけた前川國男(一九〇五〜八六年)の代表作として知られ、日本建築学会賞を受賞、日本を代表するモダニズム建築百選にも選ばれた。ところが昨年六月、京都市は突如「建物価値の継承」と謳いつつ、「舞台機能の向上」を理由に建物の過半を占める二千席の第一ホールをすべて取り壊し、高さ三十メートルの巨大な舞台を持つ劇場に改築する計画を発表したのである。

 日本建築学会や京都弁護士会などから市に保存要望書が提出され、地元の市民や建築家を中心に保存運動も展開された。しかし、方針は何ら変更されることなく今年六月に基本設計が完了、九月から解体工事が始まった。

 竣工から五十年、最低限のメンテナンスで運営されてきた建物に改修が必要なのは当然だろう。だが、その計画は専門家による検討作業も市民を交えた開かれた議論もなく決定され、本来、喜びをもって迎えられるはずの文化施設にもかかわらず、模型すら一般公開されていない。このままでは、建築としての全体性ばかりか、建物が守ってきた静かな周囲の景観まで大きく損なわれてしまう。

 何より残念なのは、機能向上を優先させたがために、前川と当時の市の担当者が精力を注いで実現させようとした開かれた公共空間が致命的に失われることだ。空間は周囲の景観と調和し、人々のよりどころとなっていた。なぜこのような無謀な計画が進んでしまうのか。そこに欠落しているのは、私たちの生活空間を形づくってきたモダニズム建築への想像力である。

 モダニズム建築は、鉄、ガラス、コンクリートなど工業・化された材料によって、生活空間を機能的で合理的な形で再編成しようと二十世紀初頭に始まった。それらは、木造やレンガの建築以上に私たちの暮らしそのものの基底をなし、今も同じ枠組みで建築も都市も作られている。にもかかわらず、現代と地続きであるために意識されにくい。しかし、より良い環境を築く明日への手がかりはその蓄積の中にしかないのだ。

 赤レンガの東京駅が修復を終える中、より身近なモダニズム建築が人知れず壊される事態に私たちは自覚的になる必要がある。このまま推移すれば、文化財指定を受けたわずかな例外を除いて、私たちの時代の建築はすべて姿を消してしまうだろう。

 京都会館には、八月末に大きな動きがあった。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)の二十世紀遺産に関する国際学術委員会が、日本の近代建築に対して初となる異例の意見書を京都市長に出したのだ。その内容は、京都会館が前川の「最も重要な作品」かつ「日本で最も重要な近代建築の一つ」であり「大切に保存されるべき文化遺産」であること、にもかかわらず今回の計画がその「美と調和」を破壊すること−を指摘し、このままでは「警告」を発することになるとして、市に計画の再考を求めるというものである。

 日本イコモス国内委員会も検討を始めた。京都市は世界が認めた建築の価値を尊重する計画修正に踏み出すことができるだろうか。これは、ひとつのモダニズム建築をめぐる問題ではない。環境は誰のものなのか、 私たちの時代の建築をどう守り育て明日を築くのか、というより根源的な問いへとつながっている。

(まつくま・ひろし=京都工芸繊維大学教授)

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